
教育テキスト
在庫管理の基礎
ここでは在庫管理について詳しく学びます。
内容は下記の項目についてです。
概要についてはこのページで無料で学ぶことができます。
在庫管理の専門的なパートについては有料となりますのでボタンを押してお申込みください。
第1章 在庫管理とは
1.1. 在庫ってそもそも何のためにあるの?
1.2. でも在庫が多すぎるとどうなる?
1.3. 目的は「ちょうどよく」すること
1.4. そもそも在庫ってどこにあるの?
1.5. 在庫の種類を知ると管理がうまくなる
1.6. 在庫管理がうまくいかないと?
1.7. 在庫管理のレベルは組織の成熟度
1.8. 在庫と経営指標のつながり
1.9. 在庫管理は“経営との対話”
第2章 在庫のリスク
2.1. 多すぎると困る:過剰在庫のリスク
2.2. 少なすぎても困る:欠品のリスク
2.3. 動かない在庫は腐る:滞留のリスク
2.4. 使えないモノが混ざる:不良在庫リスク
2.5. 誰かしか知らない:属人化のリスク
2.6. システムと現場がズレる:情報リスク
2.7. お金が動かない:資金拘束のリスク
2.8. どうすればリスクを減らせる?
第3章 在庫の動きと構造①
3.1. 在庫には理由がある
3.2. 分けていないなら 今すぐ分けてみよう
3.3. 在庫の大まかな2分類
3.4. 安全在庫の詳細
3.5. 回転在庫の詳細
3.6. 安全在庫と回転在庫 まとめ
第4章 在庫の動きと構造②
4.1. 在庫の発注と納品
4.2. 在庫の発注/納品の種類と構造的意味
4.3. 発注点在庫のロジック
4.4 在庫の発注と納品 まとめ
第5章 在庫の動きと構造③
5.1. 発注ロットって何?
5.2. 発注間隔って何?
5.3. 発注ロットと発注間隔の関係性
5.4. 在庫の発注ロットと発注間隔の設計
5.5. 発注ロットと発注間隔の設計手順
5.6. 見直しポイント
5.7. もたらす効果
5.8. 発注ロットと発注間隔 まとめ
第6章 在庫の動きと構造④
6.1. 荷姿とは何か?
6.2. 荷姿の違いが在庫を生む理由
6.3. 具体事例で見る荷姿と在庫の関係
6.4. 荷姿変換の種類とそれぞれの特徴
6.5. 見える化と管理のポイント
6.6. 荷姿と在庫の関係 まとめ
第7章 在庫削減
7.1. 在庫削減は“在庫が必要な理由
7.2. 安全在庫を減らすための改善
7.3. 回転在庫を減らすための流れの最適化
7.4. 荷姿変換在庫へのアプローチ
7.5. 現場との対話と合意形成
7.6. よくある失敗とその乗り越え方
7-7. 在庫削減の本質とは
第1章
在庫管理とは
現場と経営をつなぐ“見えない設計力”
在庫管理という言葉を聞くと 多くの人は「倉庫にあるモノの数を数える仕事」「棚卸の作業」といったイメージを持つかもしれません。
確かにそれも一部ではありますが 実は在庫管理とは もっと深くて広い意味を持つ活動です。
簡単に言えば 在庫管理とは「必要なモノを 必要なときに 必要な量だけ ムダなく用意するためのしくみづくり」です。
これは単なる現場の作業ではなく 会社全体の利益や信頼 そして働く人の安心感にもつながる 非常に重要な“設計力”であると言えるのです。
この章では在庫の役割・リスク・分類・経営との関係といった「在庫管理の基礎となる視点」を整理します。

1.1. 在庫って そもそも何のためにあるの?
在庫とは 製品や部品 原材料など まだ使われていないけれど 将来のために保管しているモノのことです。
たとえば 工場で使うネジや板金 スーパーの棚に並ぶ商品 修理用の予備部品など すべてが在庫です。
では なぜ在庫が必要なのでしょうか?
それは 世の中が「予定通りに進まない」からです。
-
お客さんの注文が急に増えるかもしれない
-
仕入れ先からの納品が遅れるかもしれない
-
機械が故障して生産が止まるかもしれない
こうした“もしも”に備えて 在庫は「緩衝材(クッション)」として働いています。
つまり 在庫があることで 会社は急な変化にも対応できるのです。

1.2. でも在庫が多すぎると どうなる?
在庫は便利な反面 持ちすぎると問題も起こります。
-
倉庫のスペースが足りなくなる
-
保管にお金がかかる(冷蔵・防湿・警備など)
-
長く置きすぎて 使えなくなる(腐る・錆びる・型落ちする)
-
売れ残って 廃棄することになる
つまり 在庫は「少なすぎても困る」「多すぎても困る」非常にバランスが難しい存在なのです。
このバランスをうまく取るのが 在庫管理の腕の見せどころです。

1.3. 在庫管理の目的は「ちょうどよく」すること
在庫管理のゴールは 「ちょうどよく」在庫を持つことです。
そのために必要なのは 次の3つの力です。
① 数量の最適化
どれくらいの在庫が必要かを 過去のデータや予測をもとに計算します。 たとえば「安全在庫」や「発注点」といった考え方を使って 欠品を防ぎながらムダを減らします。
② 情報の見える化
今 どこに何がどれだけあるかを 誰でもすぐに確認できるようにします。 紙の台帳やExcelだけでなく 在庫管理システムを使うことで 情報の共有と判断がスムーズになります。
③ 判断のルール化
「いつ どれだけ どうやって発注するか」「棚卸はどのタイミングで 誰がやるか」など 現場の判断をルール化します。
これにより 属人的な運用を防ぎ 誰がやっても同じ品質で管理できるようになります。

1.4. そもそも在庫ってどこにあるの?
在庫は倉庫だけでなく 工場のあちこちに“隠れて”存在しています。
最初の到着地点は 購入した部品が届く着荷場所。
そこから工程の前後──使う直前と加工後──を中心に 検査待ち 保管棚 出荷待機場所など さまざまな場所を通っていきます。
さらに 予備品や保留品 使う予定のない部品など 工程外の理由で置かれている在庫も少なくありません。
こうした分散した在庫をすべて把握・管理するのは至難の業です。
だからこそ 「どこに何があるか」をどう括って整理するかが 在庫削減のカギになります。
工程ごと 目的ごと リスクごとに分類することで 在庫の流れが見えるようになり ムダや滞留の改善につながります。
在庫は単なるモノではなく 工場内の“しくみ”を映す構造の一部なのです。

1.5. 在庫の種類を知ると管理がうまくなる
在庫にはいくつかの種類があります。それぞれ役割が違うので 管理の仕方も変わってきます。
種類例管理のポイント
-
原材料在庫 板金 ネジ 樹脂など 仕入れ先との納期調整が重要
-
仕掛品在庫 組み立て途中の製品 工程間の流れをスムーズにする
-
製品在庫完成品 出荷待ち 販売計画との連携が必要
このように 在庫は「どこにあるか」「何のためにあるか」で分類できます。
分類することで どこにムダがあるか どこにリスクがあるかが見えてきます。

1.6. 在庫管理がうまくいかないとどうなる?
在庫管理がうまくいかないと 会社全体にさまざまな悪影響が出ます。
-
欠品が起きて お客さんに迷惑がかかる
-
過剰在庫で 資金が滞る(お金がモノに変わって動かない)
-
廃棄ロスが増えて 利益が減る
-
棚卸が合わず 会計や税務に問題が出る
-
誰が何を判断したか分からず 責任が不明確になる
こうした問題は 現場だけでなく 経営にも大きなダメージを与えます。
だからこそ 在庫管理は「現場の作業」ではなく「経営の要」なのです。
ここまでで在庫管理の基本的な役割と課題を整理してきました。
ここからは 在庫管理をより広い視点で捉えるための“まとめ”として 組織・経営との関係を簡単に整理します。

1.7. 在庫管理のレベルは 組織の成熟度を映す
ここまで在庫の役割やリスクを見てきましたが 在庫管理は単なる現場作業ではなく 組織の判断力そのものを映す活動でもあります。
在庫管理のやり方を見ると その会社の“考え方”が見えてきます。
-
感覚で発注している会社は トラブルが起きやすい
-
データとルールで管理している会社は 安定している
-
在庫を“コスト”ではなく“資源”として扱う会社は 強い
つまり 在庫管理は「会社の頭の使い方」を映す鏡なのです。
現場の人が「なぜこの在庫が必要なのか」を理解し 経営陣が「在庫が利益にどうつながるか」を把握している会社は 強いのです。

1.8. 在庫と経営指標のつながり
在庫管理の全体像を理解するうえで 在庫が経営指標とどう関わるかを押さえておくことも重要です。
-
在庫回転率:在庫がどれだけ効率よく動いているか。高いほどムダが少ない。
-
在庫日数:平均して何日間在庫が保管されているか。長すぎるとリスク。
-
キャッシュフロー:在庫が多すぎると 現金がモノに変わって動かなくなる。
これらの指標を見ながら 在庫の持ち方を調整することで 会社の体質が改善されます。
つまり 在庫管理は「数字で見る経営改善」の入り口でもあるのです。

1.9. 在庫管理は“経営との対話”
第1章のまとめとして 在庫管理の本質を整理します。
在庫管理とは モノを数える作業ではなく 変動に備え 判断し 流れを設計する “経営的なしくみづくり” です。
需要の変化 供給の遅れ 工程のバランス──それらをどう設計し どう見える化し どう判断するか。
この“しくみづくり”こそが 在庫管理の本質です。
そしてそれは 現場だけでなく 経営 組織文化 働く人の安心感にもつながる 大切な力なのです。

第2章
在庫のリスク
在庫がもつ“構造的なリスク”を理解する
在庫は 需要変動や供給遅延に備えるための重要な緩衝材として機能します。
しかし同時に 在庫を保有すること自体がさまざまなリスクを生み出します。
この章では 在庫が抱える代表的なリスクを体系的に整理し 「なぜ在庫が問題を引き起こすのか」を構造的に理解することを目的とします。
2.1. 多すぎると困る:過剰在庫のリスク
「念のため」「安く仕入れられるから」と在庫を多めに持っておくと 安心感はあります。
でもその分 保管スペースが足りなくなったり 古くなって使えなくなったり 資金がモノに変わって動かなくなったりします。
在庫を必要以上に保有すると 以下のような問題が発生します。
• 保管スペースの逼迫
• 保管コストの増加(冷蔵・防湿・警備など)
• 長期保管による劣化・陳腐化
• 売れ残りによる廃棄ロス
• 資金が在庫に固定され キャッシュフローが悪化
特に注意すべきは「平均需要に合わせて在庫を積む」ことです。
実際の需要は分布を持つため 平均値だけを基準にすると過剰在庫が発生しやすくなります。

2.2. 少なすぎても困る:欠品のリスク
逆に在庫を減らしすぎると 今度は「欠品」が起きます。
在庫を減らしすぎると 今度は欠品が発生します。
• 注文に応えられない
• 生産が停止する
• 顧客満足度の低下
• 信頼の毀損
欠品は 情報伝達の遅れやリードタイムの長さなど しくみの不整合 によって発生しやすくなります。
過剰在庫と欠品は「量の問題」ではなく「流れと判断の問題」である点が重要です。

2.3. 動かない在庫は腐る:滞留のリスク
「いつか使うかも」と思って置いておいた部品や製品が 気づけば何ヶ月も棚の奥に眠っている──これが「滞留在庫」です。
滞留は以下の問題を引き起こします。
• 品質劣化
• 規格変更による使用不可
• 棚卸差異の発生
• スペースの圧迫
滞留在庫は「見えにくいムダ」の典型であり 定期的な棚卸と用途確認が不可欠です。

2.4. 使えないモノが混ざる:不良在庫のリスク
不良在庫とは 外観上は問題がなくても使用できない在庫のことです。
• 検査NG品
• サイズ違い・ロット違い
• 規格外品
不良在庫が混入すると 誤使用による品質不良やクレームにつながるため 識別・隔離・管理が重要です。

2.5. 誰かしか知らない:属人化のリスク
「この棚は○○さんしか分からない」「あの部品は△△さんの判断で置いてある」──こんな状態は 担当者が休んだり退職したりすると 誰も分からなくなってしまいます。
在庫の配置や判断が特定の担当者に依存している場合 以下の問題が発生します。
• 担当者不在時の混乱
• 判断基準の不統一
• 責任の不明確化
在庫は“個人の感覚”ではなく“しくみ”で管理する必要があります。

2.6. システムと現場がズレる:情報リスク
「システム上はあるはずなのに 現場にはない」「現場にあるのに 登録されていない」──こんなズレが起きると 誤発注や出荷ミスにつながります。
在庫情報が正しく連携されていないと 以下のようなズレが発生します。
• システム上はあるが現場にはない
• 現場にはあるがシステムに登録されていない
このズレは誤発注・出荷ミス・判断ミスにつながり 部門間の連携にも影響を与えます。

2.7. お金が動かない:資金拘束のリスク
在庫は 売れるまでの間「お金がモノに変わって止まっている」状態です。
これを「資金拘束」といいます。
とくに中小企業では 資金繰りに直結します。
売上があっても 現金が入ってくるまで時間がかかる。
そこに在庫が積み上がると 仕入れや給与の支払いに影響が出ることもあります。
在庫は資産ですが 動かなければ“仮死状態”。
回転率と資金計画のバランスが重要です。
在庫が多いほど資金が固定され 資金繰りに影響します。
• 支払いに必要な現金が不足する
• キャッシュフローが悪化する
• 経営の安定性が低下する
在庫は資産であると同時に 資金を止める要因 でもあります。

2.8. どうすればリスクを減らせる?
在庫リスクを減らすには 「量を減らす」だけでは不十分です。
しくみそのものを見直す必要があります。
-
平均ではなく“分布”で需要を予測する
-
発注ルールを柔軟にする(ロットやタイミング)
-
在庫情報をリアルタイムで共有する
-
品質管理と回転率を意識する
-
会計や税務のルールも理解しておく
こうした工夫を組み合わせることで 在庫はリスクではなく“柔軟性の源”になります。
在庫のリスクは 「多い・少ない」だけでなく 「どう流れているか」「どう判断されているか」によって生まれます。
だからこそ 在庫管理は“しくみの設計”であり “判断の土台”でもあります。
リスクを恐れるのではなく しくみを見直し 情報を整え 現場と経営をつなぐことで 在庫は会社の強みになるのです。
次章以降では 在庫のリスクを理解した上で 在庫の動きを構造的に見ていくことにいたします。
在庫の動きと構造
在庫という言葉には どこか「止まっているもの」「余っているもの」という印象がつきまといます。
しかし 実際の現場では 在庫は常に動いています。
入荷 消費 補充 滞留 欠品 過剰…。
それらの動きは まるで呼吸のように組織の中で繰り返され 企業の生命活動を支えています。
この「在庫の動きと構造(メカニズム)」を理解することは 生産管理において極めて重要です。
なぜなら 在庫は単なる物理的なモノではなく 情報 意思決定 時間 空間 そして人の感覚が交差する「構造的現象」だからです。

第3章
在庫の動きと構造①
3.1. 在庫には理由がある——まず「分けて考える」ことから始めよう
在庫管理の話になると よく耳にするのが「在庫を減らしたい」「在庫が多すぎる」といった声です。
確かに 在庫が過剰になると保管スペースが足りなくなったり 資金が在庫に固定されてしまったりと さまざまな問題が起こります。
しかし ここで見落としてはいけないのが 「在庫はすべて同じではない」という事実です。
在庫にはいくつもの必要な理由があり それぞれに異なる役割があります。
それぞれの在庫は 異なる目的で存在しており 管理の仕方も違って当然なのです。
それにもかかわらず すべてをひとまとめに「在庫」として扱ってしまうと 減らすべき在庫と むしろ持っておくべき在庫の区別がつかなくなります。
その結果 必要な在庫まで削減してしまい 現場が混乱したり 生産や納品に支障が出たりすることもあります。
だからこそ 在庫管理の第一歩は「在庫を分けて考えること」です。
種類ごとに目的と役割を整理することで 在庫の本質が見えてきます。
これは単なる分類ではなく 「構造を理解する」ための出発点なのです。
3.2. 分けていないなら 今すぐ分けてみよう
では 実際の現場ではどうでしょうか?
意外と多いのが 「在庫の量が種類別に明確に管理されていない」ケースです。
たとえば 「このくらいあれば足りるだろう」といった経験則や感覚だけで在庫量を決めている場合 在庫の目的や役割が曖昧になり 管理がどんどん難しくなってしまいます。
こうした状況を改善するために まず必要なのが「在庫を種類別に分けること」です。
分けてみると それぞれの在庫が何のために存在しているのかがはっきりしてきます。
すると 「どこにムダがあるのか」「どこを改善すべきなのか」が自然と浮かび上がってくるのです。
たとえば 原材料の在庫は仕入れ先の納期に備えるために必要かもしれません。
一方で 完成品の在庫が過剰になっているなら 販売計画や生産量の見直しが必要かもしれません。
このように 在庫を分けて考えることで 現場の判断が構造的な理解に基づいたものになり 改善の方向性も明確になります。

3.3. 在庫の大まかな2分類——安全在庫と回転在庫
在庫にはさまざまな種類がありますが 大きく分けると 「安全在庫」と「回転在庫」 の2つに分類できます。
-
安全在庫:工程のばらつきや供給の遅れなど 変動に備えるための“最低限必要な在庫”
-
中で常に増減する“動いている在庫”回転在庫:流れの
この分類をもとに 次節ではそれぞれの詳細を解説します。


3.4. 安全在庫の詳細──“変動を吸収するためのしくみ”
安全在庫とは 工程の特性やリードタイムの制約 進度のばらつきなどに対応するために しくみとして意図的に設けられる”最低限これだけ無いと後工程の生産時に欠品を起こしてしまう”在庫です。
代表的な安全在庫には以下があります:
-
工程間の稼働差在庫
-
エージング在庫
-
進度ばらつき対応在庫
-
運搬リードタイム在庫
-
出荷待ち在庫
-
政策在庫
-
工程間の稼働差在庫
前工程と後工程のスピードが異なる場合 早く終わったモノが後工程を待つことになります。
この“待ち時間”に発生する在庫です。
たとえば 以下のようなケースを考えてみましょう:
前工程:平日のみ 1日16時間稼働(2直体制)
後工程:土日を含めた24時間稼働(3直・連続操業)
この場合 前工程は平日の日中と夜間に稼働し 土日は停止します。
一方 後工程は週7日 24時間体制で稼働しており 常に処理能力を持っています。
ここで問題になるのは 土日や夜間に後工程が稼働しているにもかかわらず 前工程からの供給が止まってしまうという点です。
後工程は稼働しているのに 前工程からの投入物が届かない──この“空白時間”を埋めるために 前工程は金曜日の終業時点で 土日分の後工程用の仕掛品をあらかじめ作り置いておく必要があります。
この作り置きされた仕掛品が まさに「工程間の稼働差在庫」です。
この在庫が必要になる理由:
-
後工程の連続操業を止めないため
-
前工程の停止時間(夜間・土日)を補うため
-
工程間のリズムのズレを吸収するため
このような在庫は 単なる“余り”ではなく しくみのバッファとして機能しています。
もしこの在庫がなければ 後工程は材料不足で停止するか 無理に前工程を休日稼働させる必要が出てきます。
つまり 工程間の稼働差在庫は 「工程の稼働設計」と「供給の安定性」の間にある調整弁なのです。
この場合 前工程の生産量が多い日には 後工程に必要以上の部品が供給され 逆に少ない日には後工程が材料不足で止まってしまう可能性があります。
この“供給の波”を吸収するために 前工程と後工程の間に一時的な保管スペース(中間在庫)を設けておくのです。
この中間在庫が まさに「進度ばらつき対応在庫」です。
この在庫が果たす役割:
-
前工程の生産量が多い日は 余剰分を一時保管し 後工程に安定供給する
-
前工程の生産量が少ない日は 保管分を取り出して後工程を止めずに稼働させる
-
工程間の“リズムのズレ”を吸収し 全体の流れをなめらかにする

-
エージング在庫
エージング在庫とは 製品や部品を一定時間“寝かせる”ことで品質を安定させるために 意図的に保管される在庫のことです。
これは 工程の不具合や遅れによって発生する在庫ではなく しくみとして必要とされる停滞在庫です。
具体例:電子部品のはんだ付け後のエージング
たとえば 電子機器の製造工程では プリント基板に部品をはんだ付けした後 すぐに次工程へ送らず 一定時間保管してから検査や組立に進めることがあります。
この保管期間は はんだの硬化や熱応力の安定化 微細なクラックの発生確認など 品質の安定性を確保するために必要な“エージング時間”です。
この間 製品は物理的には完成していても 品質的には“確定していない”状態です。
そのため 次工程に進めることができず 一定期間保管されることになります。
この保管されている製品群が まさに「エージング在庫」です。
なぜ必要なのか?
-
材料や接合部の物理的安定化
-
品質検査の前提条件としての時間経過
-
長期信頼性の確保(特に電子部品や医療機器など)
注意点
エージング在庫は 品質確保のために必要な在庫ですが その時間が長すぎると在庫滞留の原因になります。
逆に 短すぎると品質不良のリスクが高まります。

-
前後工程の進度ばらつき対応在庫
前後工程の進度ばらつき対応在庫とは 前工程と後工程の生産スピードや処理能力に差がある場合 工程間の“ズレ”を吸収するために設けられる緩衝在庫です。
特に 前工程の生産進度が日によって振れる場合 この在庫は後工程の安定稼働を支える重要な役割を果たします。
具体例:金属加工工程と組立工程の連携
たとえば ある製造ラインで以下のような工程があるとします:
-
前工程(切削・研磨):機械加工による部品製造。作業者の熟練度や機械の状態 材料のばらつきによって 日々の生産量に変動がある。
-
後工程(組立):複数の部品を組み合わせて製品を完成させる。作業は標準化されており 日々ほぼ一定の処理能力を持つ。
この場合 前工程の生産量が多い日には 後工程に必要以上の部品が供給され 逆に少ない日には後工程が材料不足で止まってしまう可能性があります。
この“供給の波”を吸収するために 前工程と後工程の間に一時的な保管スペース(中間在庫)を設けておくのです。
この中間在庫が まさに「進度ばらつき対応在庫」です。
この在庫が果たす役割:
-
前工程の生産量が多い日は 余剰分を一時保管し 後工程に安定供給する
-
前工程の生産量が少ない日は 保管分を取り出して後工程を止めずに稼働させる
-
工程間の“リズムのズレ”を吸収し 全体の流れをなめらかにする

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運搬リードタイム在庫
運搬リードタイム在庫とは 前工程から後工程へモノが移動する際に 物理的な距離や運搬時間の制約によって発生する“待機在庫”です。
この在庫は 単なる保管物ではなく 工程間の“時間差”を吸収するためにしくみとして必要な在庫です。
具体例:別棟にある前工程からの部品供給
たとえば ある製造現場で以下のような状況を考えてみましょう:
-
前工程(部品加工)は敷地内の別棟にあり 完成した部品は台車で運搬される。
-
後工程(組立)は本棟で稼働しており 部品が届き次第 組立作業に入る。
-
運搬は1日3回 決まった時間にまとめて行われている。
この場合 後工程の担当者が「そろそろ部品が足りなくなりそうだ」と判断して前工程に発注しても 実際に部品が届くのは最短でも次の運搬タイミングになります。
つまり 発注から届くまでに数時間〜半日程度の“リードタイム”が発生するのです。
この時間差の間に後工程の作業が進んでしまうと 部品が届く前に手持ちの在庫が尽きてしまい 作業が止まるリスクがあります。
このリスクを防ぐために 後工程では「運搬リードタイム分の在庫」をあらかじめ持っておく必要があります。これが「運搬リードタイム在庫」です。
この在庫が果たす役割:
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発注から届くまでの“空白時間”を埋める
-
後工程の欠品リスクを防ぎ 安定稼働を支える
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工程間の物理的距離や運搬頻度の制約に対応する

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出荷待ち在庫
出荷待ち在庫とは 製品としてはすでに完成しているにもかかわらず 出荷指示が出るまで保管されている在庫のことです。これは 品質検査の完了待ちや 出荷タイミングの調整 顧客側の受け入れ都合など さまざまな理由で一時的に“止まっている”在庫です。
この在庫は 工程の不具合による滞留ではなく しくみ上の“待機”として発生する停滞在庫です。
具体例:完成品が検査工程の順番待ちで滞留するケース
たとえば ある工場では 製品の最終工程が組立であり その後に品質検査を経て出荷される流れになっています。
この品質検査は 専門の検査員が目視や測定器を使って行うため 1日に処理できる件数に限りがあります。
しかも 検査工程は複数ラインの製品を一括で扱っているため 検査待ちの製品が日々蓄積されていきます。
結果として 組立が完了した製品は 検査が終わるまで倉庫や一時保管スペースに“出荷待ち”として滞留します。
製品自体は完成していても 検査が終わらない限り出荷指示は出せません。
このような状態の製品群が まさに「品質検査待ちによる出荷待ち在庫」です。
この在庫が発生する背景:
-
検査工程の処理能力が限られている
-
検査員の人数やスキルに依存している
-
検査基準が厳しく 時間がかかる
-
検査工程が複数ラインで共用されている

-
政策在庫
政策在庫とは 例えば原材料や購入品の価格が変動することを見越して 安い時期にまとめて購入しておくことで発生する在庫など 政策的に積み増しておく在庫のことです。
これは 日々の生産活動に必要な量を超えて 戦略的に保有する“しくみとしての停滞在庫”です。
この在庫は すぐに使われるわけではありませんが コストの安定化や供給リスクの回避を目的として 意図的に持つことに意味がある在庫です。
具体例:樹脂原料の価格変動に備えたまとめ買い
ある成形工場では 製品の主要材料としてポリエチレン樹脂を使用しています。
この樹脂原料は 原油価格や為替の影響を受けて 月ごとに価格が大きく変動します。
購買部門では 過去の価格推移と業界の市況情報をもとに 「来月以降は原料価格が上昇する可能性が高い」と判断しました。
そこで 通常は月間使用量に合わせて発注しているところを 今月のうちに3か月分の樹脂原料をまとめて購入することにしました。
この結果 工場には通常より多くの原料が保管されることになります。これが「政策在庫」です。
この政策在庫が果たす役割:
-
原材料価格の高騰によるコスト増を防ぐ
-
供給不安(輸送遅延・需給逼迫)への備えになる
-
生産計画の安定性を確保できる
このように 政策在庫は「価格が安い今のうちに買っておく」という判断によって生まれる在庫です。
これは 単なる“余剰”ではなく 経営判断に基づいた“しくみのバッファ”です。
この政策在庫の注意点
政策在庫は 戦略的に有効な手段ですが 持ちすぎると以下のような問題も発生します:
-
保管スペースの圧迫
-
資金の固定化(キャッシュフローへの影響)
-
長期保管による品質劣化や管理負荷
政策在庫のもう一つの事例として 工程が一時的に使えなくなることを見越して 事前に必要量を確保しておくことで発生する在庫もあります。
これは 工事や試作 設備改修などによって量産ラインが一時的に停止することが予測される場合に 工程の空白期間を埋めるために意図的に持つ“しくみのバッファ”です。
具体例:成形機の金型交換工事に備えた製品の事前生産
あるプラスチック成形工場では 主要製品の金型を改修するために 成形機の一部を3日間停止する予定がありました。この間 該当製品の生産はできなくなります。
しかし 顧客への納品スケジュールは変更できないため 工場では工事前の1週間で 停止期間中に必要な製品をあらかじめ生産しておくことにしました。
このようにして事前に作り置かれた製品は 工事期間中に出荷されるまで保管されることになります。これが「政策在庫」です。
この政策在庫が果たす役割:
-
工程停止による欠品リスクを防ぐ
-
顧客納期を守るための“しくみの緩衝材”になる
-
生産計画と設備計画の整合性を確保する
このような在庫は 工程の都合によって一時的に“止めておく”ことに意味があり しくみの安定性を支える戦略的な在庫です。
このように 政策在庫とは 価格変動や工程停止など将来の不確実性に備えて 意図的に持つ戦略的な在庫です。安価な時期に原材料をまとめ買いしたり 工事や試作で工程が止まる前に事前生産することで発生します。
動かないことに意味があり しくみの安定と欠品防止を支える“構造的なバッファ”です。
政策在庫はしくみとして“止めておく”ことに意味がある在庫なのです。

3.5. 回転在庫の詳細──“流れの中で動く在庫”
回転在庫とは納品・消費・出荷のサイクルの中で常に数量が変動している在庫です。
代表例:
-
納品間隔に基づく1ロット分在庫
納品間隔に基づく1ロット分在庫とは 原材料や部品の納品頻度が限られている場合に 次回納品までの必要量をまとめて持つことで発生する在庫です。
具体例:週1回納品の電子部品を使う組立工程
ある組立工場では 製品に使用する電子部品(たとえばコネクタ)が 取引先の都合により毎週月曜日にしか納品されないという条件になっているとします。
この部品は 1日あたり約500個使用されるため 週5日稼働する工場では 1週間で約2,500個が必要になります。
そのため 購買部門は毎週月曜日に 1週間分=2,500個をまとめて発注・受け入れています。
このようにして保管される部品は 月曜日に一気に増え 火曜から金曜にかけて徐々に減っていき 週末にはほぼゼロになります。
この“増えて減る”動きの中で存在する在庫が 「納品間隔に基づく1ロット分在庫」です。
この在庫が果たす役割:
-
納品間隔の制約に対応し 欠品を防ぐ
-
生産のリズムに合わせて安定供給を支える
-
発注と納品のしくみを前提にした“流れの中のバッファ”
この在庫は 工程のばらつきに備えるものではなく 納品のしくみそのものが生み出す“波”を吸収するための在庫です。

3.6. 安全在庫と回転在庫 まとめ
いかがでしょうか──あなたの工場では 在庫をここまで分けて設定できているでしょうか?
「在庫を減らす」前に 「在庫を分類し理解する」。
それが 真の改善の第一歩なのです。
ここまで見てきたように 在庫は単なるモノの集まりではありません。
それは 工程のばらつき 納品の間隔 価格変動 検査待ちなど しくみの中にある不確実性や制約を吸収するために存在する“構造的な緩衝材”です。
在庫にはそれぞれ理由があり 役割があります。
それをすべてひとくくりにして「減らすべき」と考えてしまうと 必要な在庫まで削ってしまい かえって現場が混乱したり 納期遅れが発生したりします。
だからこそ まずは「分けて考える」ことが重要です。
在庫を種類ごとに整理し 「なぜこの在庫が必要なのか?」を明確にすることで 改善の方向性が自然と見えてきます。
特に 安全在庫と回転在庫(変動在庫)という2つの大分類は 在庫の性質を理解するうえで非常に有効です。安全在庫は工程のばらつきやリードタイムの制約に備える“しくみのバッファ”。
回転在庫は納品間隔や発注ロットによって生まれる“流れの中の波”。
それぞれの在庫が 止まっていること・動いていることに意味を持っています。

有料パートでは「在庫の動きと構造(メカニズム)」の より詳細な内容と在庫を削減する方法について解説しております。